やがて春が来るまでの、僕らの話。

【若瀬side】




「今ハナエ、すっげーいい音したな」

「試合中にボール見てないって致命的じゃね?」


カッシーと壁に座りこみ、見えたハナエの惨事に笑ってた。


「楽しそうに話してんじゃん、むっちと」


何を話しているのかなんて聞こえる訳もないけど、それでも二人が笑ってるのぐらいは見える。


「普通に話せばいい子だって、むっちとかなら分かってくれそうだね」

「男気あるからな、むっち」

「それ言ったら絶対ぶっ飛ばされるよ」


ははっと笑ったカッシーは、持っているフットサルのボールを遊ぶように上に投げてはキャッチしている。


「さっきなに考えてたの?」

「んー?」

「授業始まる前、ボーっとしてたじゃん」


ハナエは反省したのか、今度は必死にボールを追いかけている。

それを見ている俺の横で、カッシーはリズムよく投げて遊んでたボールの動きを止めた。


「別に、腹減ったなーって」


お、むっちがハナエにパスした。


「休み時間、おにぎり一個食ってたじゃん」


あ、ムカデ女、今のどう考えてもファールだろ。


「成長期なんだよ」

「へぇー」



心の内を隠したがるカッシーだから、あんな風にボーっとしてあからさまなのは珍しい。

いよいよこいつも色々しんどくなってきたのかなって。


“あのこと”が、なんかすげぇ心配になった……


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