やがて春が来るまでの、僕らの話。
【ハナエside】
「柏木くん、さっき陽菜のこと無視した?」
隣の席の柏木くんにそれとなく聞いてみたのは、四時間目の国語の時間だ。
「は?いつよ?」
ほらやっぱり。
自覚がないってことは、全然無視なんてしてないってこと。
やっぱり、あれは陽菜の勘違い、
「あいつ俺のこと呼んでた!?」
授業中にしては大きな声で、柏木くんは焦るように私の方に体を向けた。
今さっきまで暇そうだった表情が、別人みたいに変わってる。
「さっき、体育の時間に…」
「まじかよ…」
うな垂れた柏木くんは、重い責任を感じるみたいに息を吐いた。
聞こえなかっただけなのに、なんでそんなに……
「なんか言ってた?」
「え?」
「陽菜、俺が気づかなかった後、なんか言ってた?」
───“ひでがいなくなったら…………私、死ぬ……”
一番に浮かんだのはその言葉だ。
重すぎるその言葉を伝えていいものか、悩んでいると……
「……死ぬとか、わめいてなかった?」
すぐに柏木くんの口から出てきたということは。
もしかして陽菜、いつもあんなこと言ってるの?
そういえば前に、柏木くんに依存してるって言ってたような……
依存って、どうして……