やがて春が来るまでの、僕らの話。



「あの頃、……陽菜が亡くなって間もない頃、お母さんが病気になったの」

「病気?」

「大きな病院で診てもらうために、こっちに引っ越すことになった。それでなにも言わず、あの町を離れた……」

「んだよそれ、なんで一言でも相談しなかったんだよ、…!」

「だって!」

「……」

「だってあの頃、私たちなにも話さなくなってたから……隣の席だった柏木くんとも、付き合ってた若瀬くんとも、卒業しちゃう律くんとも…………誰も、……何も話さなくなってた」

「ハナエちゃん……」

「みんなが塞ぎこんでる中、相談なんて……出来るわけなかった」



顔を伏せて言う彼女は、自分の手をギュッと握っている。

なにかに耐える様に、ギュッと……



「それからお母さんはこっちに来てすぐに死んじゃって……親戚の人に預けられて」

「え、おばさん、亡くなったの?」

「うん……」


俺たちも会ったのことのある彼女の母親は、もうこの世にはいない。

その事実があまりにも衝撃だったのか、志月の目が悲しく歪んでいった……

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