やがて春が来るまでの、僕らの話。
「……私のお父さん、ね」
ポツリと呟くような声が出る。
この町に来て、誰にも打ち明けていない……
誰にも打ち明けるつもりはなかった話。
柏木くんは手首を握ったまま、疲れて伏せていた顔を上げ、私を見た。
「……私のお父さん、毎日お酒ばかり飲んで、その度に私とお母さんにひどい暴力を奮っていたの」
柏木くんの顔は見れなかった。
体が、少しだけ震えてる。
人に話すのは、初めてだから……
「まだ私が小学生だった頃……お父さんはその日もたくさんお酒を飲んで、いつもみたいに部屋中めちゃくちゃにして、私たちは痣ができるほど殴られた……」
「………」
「その後ね、お父さん、車に乗ってどこかへ行ったの…」
「………」
「お母さんはわかっていたはずなのに……あんなにお酒を飲んで、車の運転なんてできるわけないって」
わかり切っていたはずなのに……
「もうこのままだと殺されちゃうからって……私を守るために、あの男から離れるために、早く遠くに行ってほしくて、…車に乗ることを止めなかった」