獅子に戯れる兎のように
 私もお昼に公園でサンドイッチを食べている。こってりした料理は太るから食べたくない。でも甘いスイーツは別腹、女子は矛盾してる。

 色気より食い気に走る私達。ふと気が付くと留空の周りには複数の男性が群がっていた。

「灰だらけのシンデレラが、一夜限りのモテ期に突入だね」

 美空はパスタを頬張りながら、留空を見つめた。

「確かに、でも今日の留空可愛い」

「うん、それは認める。私達も捨てたもんじゃないと思うけど」

 男なんて興味ないと、常日頃から豪語している美空が、自分より地味子だと思っていた留空のモテ振りに、心中穏やかではなさそうだ。

 女って面白い生き物だな。
 友達を無意識の内に格付けし、その格付けが崩壊すると、焦りを感じてしまう。

 美空はまさにそれだ。

 美空は料理が沢山乗ったお皿と、シャンパングラスを掴んだまま、男性に取り囲まれている留空に近付く。

「皆さん、この子はとても控え目な性格なの。一度に言い寄られて困ってるでしょう。一人ずつお名刺をいただけますか?」

「すみません、大変失礼しました。あまりにも美しいのでつい……」

 男性は一人ずつ名刺を差し出し、自己紹介をしている。美空はまるで婚活パーティーの進行役みたいに仕切っている。

 困り顔の留空も、これで一安心だ。

 美空の手腕に、思わずクスッと笑みが漏れる。

「はじめまして。君も南原の知り合いですか?」

 不意に声を掛けられ振り返る。そこに立っていたのは、長身で黒髪、涼しい目をした知的なイケメン。

「これは失礼、名刺でご挨拶しないとお友達に叱られるかな。私は木崎クリニックの内科医をしています。木崎晴《きざきはる》と申します。ちなみに三十四歳独身です」
< 73 / 216 >

この作品をシェア

pagetop