小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

「リンネ、どこを見ている」

 不満げにレオに言われて、彼に耳打ちしようと顔を上げた。意図を察したのか、少し体を屈めて、耳の位置を低くしてくれる。

「レオ、あそこにローレン様が」

「ああ。成金の子爵令嬢程度がよくこの場にもぐりこめたものだ」

 子爵位はたしかにそこまで高くはないが、王都に居を構える貴族であるならば呼ばれるだろう。資産家であるならなおさらだ。

「招待されたからここにいるのに決まってるでしょう? レオ、ちょっとローレン様に冷たくない? 同じ転入生だし、他学年と言っても面識あるでしょう?」

「あの程度の面識で馴れ馴れしくされるのが気に入らない。『あなたを救えるのは私だけだ』などと、妄言を吐くしな」

「へぇ」

 それは初耳だ。私の知らないうちに、ローレン様はレオにコンタクトを取っていたらしい。

 美人なのに、レオの御眼鏡には叶わないのか。逆かな。美人過ぎるから駄目なのかも。女の人に嫌悪感があるのだから、私みたいに女らしくない方が安心できるのだろう。

 気になってじっとローレンの方を見ていたら、レオに顎を掴まれ、正面を向かされた。

「あんな子爵令嬢ごとき、おまえが気にすることはない」

 レオが腰をかがめて私を見つめているから、まるでキスをする直前のような距離感になっている。当然、周囲はざわめいた。

 こんな姿を見ていれば、レオが女嫌いだなんて周りは思わないんだろうなぁ。いいのだか悪いのだか微妙なところだ。

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