溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
小野はどぎまぎする梨乃の顔を覗き込み、冷やかす。

「未定、というか……」

とりあえず偽装婚約ではなく正真正銘の婚約者だと言われただけで今はまだなにも決まっていない。
これまで恋愛経験のない梨乃には恋人同士がどのタイミングでどんな風に婚約に進んでいくのかも知らずましてや婚約後の段取りなど想像もつかない。
イメージではまずは双方の家族に挨拶なのだが、侑斗の家族は白石ホテルの創業家一族。
雲の上の存在だ。会ってなにを話せばいいのかもわからないうえに自分の両親にもまだなにも伝えていない。
侑斗からは早いうちに両家の顔合わせをしようと言われているが、梨乃はまだ迷っている。
梨乃が知らず知らずうつむいて考えこんでいると、小野の感心する声が聞こえた。

「俺の今後のために教えてほしいんですけど。姉バカで仕事オンリーの折原さんを、侑斗さんはどうやって落としたんですか?」
「どうやって落としたって言われても、それはまあ、いろいろあって……そんなのいいでしょ別に」

梨乃は赤くなった顔をプイと逸らした。同時に、胸の奥がきゅっと痛むのを感じる。
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