溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
梨乃は不安な気持ちのまま遠巻きにマンションを見ていたが、もう少し近づいてみようと人ごみの間をかき分けながら歩を進めた。
そのとき、突然腕を掴まれ背後に引き寄せられた。

「勝手に近づくな。危ないだろ」
「えっ。あ、侑斗さん」

振り向けば焦った表情を浮かべた侑斗がいた。

「でも、強盗が。うちもどうなってるのかわからなくて」
「落ち着け。翔矢君が近所の人を見つけて、今話を聞いてる。弟の方がよっぽど冷静だ」

梨乃の両肩に手を置き、侑斗はホッと息を吐き出した。
車から飛び出した梨乃を心配し慌てて追いかけてきたのだろう。

「ごめんなさい」

目の前の侑斗の胸に向かって、梨乃は頭を下げた。
侑斗の顔を見た途端、それまで抱えていた緊張感が少し和らいだ気がした。

「あの。動転してしまって、思わず車から飛び出しちゃって……あっ」

侑斗にコクコクと頭を下げていた梨乃は、周囲の人たちと続けざまにぶつかりふらついた。

「大丈夫か」

 侑斗はよろける梨乃を支え、周囲からかばうようにその胸の中に抱え込んだ。

「俺にしがみついてろ」
「は……い。重ね重ね、すみません」
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