溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
「気にするな。だけど、近いうちに婚約指輪を選びに来よう。ああ、梨乃のご両親へのご挨拶が先だ。早く日程を調整しないとな。そういえば、講習会かなにかでうちのホテルに泊まるんだよな? それっていつだ?」
「そういえば、そろそろです。いつもギリギリに連絡してくるんですけど、予約係に一度聞いてみます」

侑斗との同居についてなにひとつ両親に報告していないせいで顔を合わせづらい気持ちもあるが、やはり母親に会えるのはうれしい。

「うちの母親、明るいというか朗らかな世間知らずなんです。驚かないでくださいね」

梨乃の母は音楽以外にはこれといった興味がなく、人とは少しずれている。
音楽で生活できるだけで幸せというひとだ。
そんな母親と白石家の面々が顔を合わせたときに話が弾むのだろうかと、梨乃は不安を覚えた。

「……いたっ」

いつの間にか信号が青に変わっていたようで、立ち止まっていたふたりは対向からの流れに巻き込まれた。
侑斗がかばうように梨乃の肩を抱き寄せたとき、人混みの隙間から女性の声が聞こえた。

「侑斗さん?」
「……は? あ、村野さん」
「こんなところで会うなんて偶然ね。お買い物?」


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