溺愛は蜜夜に始まる～御曹司と仮初め情欲婚～

それどころか翔矢とともに自宅の整理が行われ、梨乃の荷物は侑斗のマンションに、そして翔矢も侑斗が所有する別のマンションに向かったらしい。
同時にマンションを引き払う手続きも始められているようだ。

「疲れただろう、コーヒーでも淹れるから座ってろ」

梨乃の手を引き部屋を案内していた侑斗は、リビングのソファに梨乃を座らせるとキッチンでコーヒーを淹れ始めた。
しばらくの間その慣れた手つきと嬉々とした侑斗の表情をぼんやり見ていた梨乃は、ふと気づいたように立ち上がり、慌てて侑斗の傍らに立った。

「すみません。私が淹れます」

梨乃は侑斗からコーヒーの粉が入った缶を受け取り、コーヒーメーカーにセットした。
慣れない機械をぎこちない手つきで操作する梨乃を、侑斗はテーブルにもたれ、見守っている。

「あの、コーヒーカップとか……」

コーヒーの出来上がりを待ちながら、梨乃はキッチンを見回した。

「ああ、食器ならここに全部入ってるから好きに使ってくれ。冷蔵庫も自由にどうぞ」

侑斗は白い食器棚からコーヒーカップを取り出し、テーブルの上に置いた。