溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~
そしてそのまま梨乃の腕を取ると、ゆっくりと引き寄せた。

「というよりこの家はもう梨乃の家でもあるから、なにもかも気にせず使っていいし」
「え、あの、ゆ、侑斗さん」
 
突然侑斗の顔が目の前に現れ、おまけに腰には侑斗の手が回されている。
まるで抱き寄せられたような状況に、梨乃の体は固まった。

「さて、俺の婚約者の顔をじっくりと見せてもらおうか」
 
侑斗は腰を落として梨乃の顔を覗き込んだ。

「婚約者って……あの、本気ですか? それに、この家が私の家っていうのもやっぱりおかしいし」

侑斗に見つめられ、それまでぼんやりしていた心が一気に動き出す。


「いきなり私を自分の家に連れてくるし、荷物だって翔矢と勝手に処分して。いったいどうなってるんですか」
昨夜から予想外のことばかりが続いて脳の働きが鈍っていたが、ここに来てようやく思考回路が通常運転を始めたようだ。
本当なら、病院を出る前に聞いておくべきだった。
というよりも、昨夜のうちに引っ越しなどしないときっぱり言っておかなければならなかったのだ。
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