悔しい心音に望む
満ちて、それで足りて。
慣れたような扱いが気に食わない。
はずなのに、思考はふわふわして浮き足立ってて本当に私が私じゃないのね。
「百亜」
気はずかしいのか距離を取った近江は、困ったような表情で口元を微笑ませる。
「誠実で “ ホンモノ ” だってようやくおわかり?」
「……わかった、もう降参」
普段飄々として。我関せず、みたいな仏頂面。知ったように嘲笑まで浮かべる近江の苦笑が。
悔しくないけど、ちょっとはざまぁみろ、とか思う。私だけしんどいのって不公平だし。
だから清々しくわらってみせた。
「諦めて認めるよ。…きみは可愛い、もちろん内面もぜんぶ」
一番信用できない “ 可愛い ” ってことば。
きみからは聞きたいって、だって、理想論の途中。
「すきとか言ってくれないの?」
「きみは言わないのに?」
「わかってないなあ。だから貸してあげたんじゃん少女漫画!」
「……そういうベタベタな夢思考は僕に向けないでほしい」
理想論の途中で、やっぱり悉く不公平。
許容し尽くして、本当はロマンチックとか求めてないけど。
その方が可愛いって思っていたから、もう捨てていい取り繕った乙女心と幼心の夢。
あー、もう黙って。
…って、隙をついて押し付けた唇。
さっきと同じぴったり10秒。
それから離れて。
「近江が、すきなの、私」