悔しい心音に望む



満ちて、それで足りて。


慣れたような扱いが気に食わない。


はずなのに、思考はふわふわして浮き足立ってて本当に私が私じゃないのね。




「百亜」




気はずかしいのか距離を取った近江は、困ったような表情で口元を微笑ませる。




「誠実で “ ホンモノ ” だってようやくおわかり?」


「……わかった、もう降参」




普段飄々として。我関せず、みたいな仏頂面。知ったように嘲笑まで浮かべる近江の苦笑が。


悔しくないけど、ちょっとはざまぁみろ、とか思う。私だけしんどいのって不公平だし。


だから清々しくわらってみせた。




「諦めて認めるよ。…きみは可愛い、もちろん内面もぜんぶ」




一番信用できない “ 可愛い ” ってことば。


きみからは聞きたいって、だって、理想論の途中。




「すきとか言ってくれないの?」


「きみは言わないのに?」


「わかってないなあ。だから貸してあげたんじゃん少女漫画!」


「……そういうベタベタな夢思考は僕に向けないでほしい」




理想論の途中で、やっぱり悉く不公平。


許容し尽くして、本当はロマンチックとか求めてないけど。


その方が可愛いって思っていたから、もう捨てていい取り繕った乙女心と幼心の夢。


あー、もう黙って。


…って、隙をついて押し付けた唇。


さっきと同じぴったり10秒。


それから離れて。




「近江が、すきなの、私」







< 14 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop