貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
「なかなか会いに行く暇もなくて、悪いね。言い訳のように聞こえるかもしれないけれど、今は前陛下時代の引継ぎがあって本当に忙しいんだ」

 疲れたように、晴明が、ほう、とため息を吐く。

「ええ、わかっているつもりですわ。わたくしは大丈夫ですから、陛下こそお体にはお気をつけてください。そういえば、天明様は」

「紅華殿」

 ふいに、晴明が紅華の言葉を遮った。おだやかで聞き上手の晴明と話す時には今までなかったことで、紅華はきょとんとする。そんな紅華を見ながら、晴明はわずかに口角をあげた自分の唇に人差し指をあてた。

「その名を無闇に口にしてはいけない」

 低く囁くような声だったが、穏やかに笑んだ顔を、紅華は初めて、怖いと思った。

「いいね?」

「はい……」

「いい子だ」

 紅華がかすれた声で返事をした時には、もう晴明はいつも通りの笑顔に戻っていた。

(今の……本当に晴明様……?)

 間違いなく、目の前にいるのは晴明だ。天明ではない。なのに、一瞬だけだがその笑顔に背筋が冷たくなった。
 常に笑顔を絶やさない穏やかな晴明にそんな一面があることを、紅華は初めて知った。
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