貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます【番外編追加しました】
第二章 一人だけの後宮
 後宮は閑散としていた。

 本来なら、時の皇帝のための妃や女官で溢れかえる華やかな場所だ。だが今この後宮にいる妃は紅華一人だけで、綺麗に磨かれた玉造りの廊下も、ときおり女官や侍女が軽い衣擦れの音をさせて通っていくだけだ。


「静かね」

 窓から明るい庭を見ながら、紅華が言った。

「そうですね。でも、昨日までは大変な騒ぎでしたのよ」

 紅華の前に、ことりと睡蓮がお茶を置く。爽やかな青い香りが広がった。

「たった三日でここまできれいにすっきりしちゃうのって、すごいわ」


 皇帝崩御から三日。葬儀と晴明の即位式は滞りなく終わり、紅華もこうして後宮へと無事に居を移すことができた。

 紅華の住まう翡翠宮は、壁紙や窓の引幕も新しくされ、蔡家から持参した調度品が揃えられている。部屋の中に漂う上品な香の中には、新品の布の匂いがかすかに混ざっていた。
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