仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 それから十分ほどで玄関の鍵が開く音が聞こえた。ぎくりとしたのは隠しておく。

(ただの帰るコールであって、大事な話があるわけじゃない。まだ離婚されない……まだ……たぶん……)

 予想よりも遅い帰りになったこともあり、悪い方向に考えてしまう。

 鬼が出るか蛇が出るか、微かな希望にかけて仏が出ることを祈った。

「おかえりなさい」

 本当は玄関まで出迎えてみたかったけれど、和孝さんがそれを望んでいるとは思えず、キッチンから声をかける。

 廊下を通る足音が近付いてきた。

 緊張が高まる中、スープをよそって深呼吸をする。

「ただいま」

 ごそごそと背後で和孝さんが動く気配を感じる。

 まだなにもない。まだ。でも、次になにを言われるのか考えるのが怖い。
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