仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 不満げに言う和孝さんの口元は笑っていた。優しく見えてこんなふうに私を翻弄するから手に負えない。出会った当初からいい人だと思っていたのに、最近は悪い人かもしれないと少し思っている。

「もし目を閉じてくれないなら、もう一生私からキスしない」

「すごい脅しの仕方だな……」

「好きも言わないし、これからは敬語で喋る」

「うん、それで?」

 私がむっとしているというのに、どうして楽しそうにしているのか理解に苦しむ。このにこにこした笑顔をむぎゅっと両手で挟んでやりたかった。

「あとは……あとは……」

「それだけなら、自力でなんとかできそうな気がする」

 てっきり「それは困る」と要求を呑んでくれると予想していただけに、問題ないとでも言いたげな反応は想定外だった。

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