月に魔法をかけられて
「どうしたの? 美月ちゃんが可愛すぎて見惚れてるの?」

何も答えない俺に、瞳子はニヤニヤとしながら俺を肩肘で小突く。

「そ、そんなことあるわけないだろ……」

俺は動揺しているのがバレないように、瞳子の顔をキッと睨んだ。

「うふふっ。そんな顔しなくても……。美月ちゃんが可愛いなら素直にそう言えばいいのに。もしかして半年以上も美月ちゃんの近くにいたのに、この可愛さに気づいてなかったとか?」

瞳子は益々面白そうに俺の反応を見ながら茶化してくる。

「そりゃあ毎日一緒にいる美月ちゃんがこんなに可愛かったなんて知ったらびっくりするわよね。早くしないと可愛い美月ちゃんを誰かに取られちゃうわよ」

「はぁ? あいつは秘書だろ……」

「秘書の前にひとりの女性よ。あんないい子、そうそういないわよ。ほんとに誰かに取られても知らないからね。先に忠告しておいてあげる。ほら、モデルのHAYATOも美月ちゃんに声かけてるし。壮真、ライバルがいっぱいね」

瞳子の隣にいる塩野部長にチラリと視線を向けると、俺たちの会話を聞いて苦笑いを浮かべている。

だいたいどうして俺が秘書に気がある前提なんだよ。
ライバルがいっぱいってなんだよ。
俺には関係ないだろ……。

俺は不貞腐れながら椅子に座っている秘書に再び視線を向けた。秘書はなぜか両手を頬に当てたまま俯いている。

確かに瞳子の言う通り、今回の新色のイメージは武田絵奈より秘書の方が合ってる気はするが──。
こいつ、こういうところはセンスがあるというか、昔から見抜く力がすごいんだよな。

そう思いながら秘書を見続けていると、ふいに秘書が顔を上げ、両手を頬に当てたまま俺の方を向いた。

バチン──と視線がぶつかる。

だがその瞬間、すぐに視線は逸らされた。
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