月に魔法をかけられて
「もしかして……気づいていただけたのですか?」

「ああ。わかるよ」

「そうなんです。ラテン語の『月』の『ルナ』と、フランス語の『美しい』の『ボーテ』で、私と一緒の名前なんです」

嬉しくて思わず声を弾ませてしまった。

「美月さん。いい名前だね。ところで美月さんはこのルナ・ボーテの名前の由来って知ってるかい?」

「確か絶世の美女と言われた柔らかな光を放つ月の女神の名前から会社名をつけたと聞いておりますが……」

「そうだね。それは合っているよ。だけどもう少し補足があってね。その月の女神は3つの顔を持っていると言われているんだ。月には満ち欠けがあるように、三日月は少女、満月は成熟した女性、そして下弦の月が老女という3つの顔を持っているそうなんだ。どの月にもそれぞれの美しさがあるだろう? だからどの年代の女性にも美しく輝いていてほしいという願いをこめてつけられた名前なんだよ」

「わぁぁ、すごい! 初めて知りました。そんな深い意味があったなんて……」

私は目を見開きながら吉川さんの月の話に惹きこまれていた。吉川さんは穏やかな顔で私を見て微笑んでいる。

「吉川さん、あっ、吉川様、素敵なお話を聞かせてくださりありがとうございました。この名前をつけられた創業者の先代の社長ってとても素敵な方だったんですね。私が入社した時にはもう会社にはいらっしゃらなかったのでお会いしたことないのですが、ぜひお会いしてみたかったです」

「いやいや、恥ずかしい……」

私が吉川さんに笑顔を向けると、吉川さんはなぜか照れながらハンカチで顔を仰いでいる。

「吉川様?」

「あっ、いや……。こんな可愛いお嬢さんに素敵な方と言われたら、先代の社長も喜ぶだろうと思ってね。今度会ったら伝えておくよ。それと私のことは吉川さんで大丈夫だよ。ところで美月さん、そろそろパーティーに顔を出した方がいいんじゃないのかい?」

吉川さんが腕時計を見ながら時間を確認する。

「あっ、そうでした。でも吉川さんは?」

「私もそろそろ帰るとするよ。今日はここに来て良かった。ありがとう美月さん」

吉川さんは椅子から立ち上がると、手を振りながらエレベーターホールに歩いて行った。私はその場で吉川さんが見えなくなるまで見送ると、急いでパーティー会場の前に行き、ゆっくりと扉を開けた。
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