月に魔法をかけられて
座ったあとも、心臓がドクンドクンと大きく音を立てている。

こんな周りにカップルしかいないようなお店で、これから副社長と2人ごはんだなんて、緊張してどうしていいのか分からない。

店内を見ているふりをして気づかれないように副社長にチラッと視線を向けると、副社長はテーブルに置いてあったメニューを手に取って見ていた。

副社長って、こういう何気ない姿もかっこいいよね……。
イケメンってすごいわ……。

メニューのページをめくりながら、もう片方の手でネクタイを緩めている。

長い指で緩められたネクタイの首元から漂う色気が、とても男っぽくて半端ない。

チラッと視線を向けただけのつもりだったのに、私は気づかないうちに副社長をじっと見つめ続けていた。

「何か嫌いなものある?」

ふいに副社長の視線がメニューから自分に向けられ、胸がドックンと大きく跳ね上がった。

「あっ、い、いえ……。だ、大丈夫です……」

慌てて首を左右に振る。

みるみるうちに身体全体が熱くなり、心臓が猛スピードで動き出した。

わっ、副社長の顔なんかじっと見つめたりなんかして、
変に思われるじゃん……。

「じゃあ、俺が適当に頼んでもいい?」

「はい……。お願いします……」

私は視線を下に落としながら小さくコクンと頷いた。
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