月に魔法をかけられて
副社長はスタッフを呼ぶとメニューを見せながら注文を始めた。

「飲み物はシャンパンで。ドゥーツのブリュットはある?」

「はい。本日はクラッシックだけでなくヴィンテージもございますが」

「じゃあヴィンテージで。料理は鮮魚のカルパッチョと……あっ、今日の鮮魚って何?」

「本日はヒラメでございます」

「じゃあそれと、あのいつものシェフのおすすめサラダね。あとは飛騨牛のローストと、パスタは……オマール海老のトマトクリームで。とりあえずこんなもんかな」

慣れたように次々と注文していく副社長とそれに応える男性スタッフ。

ここって副社長がデートで来たりするのかな?

ふとそんなことが脳裏をよぎり、慌てて頭を振った。

そんなデートするようなお店に私を連れてくるはずないでしょ!
私は何を考えてるの!

すぐにシャンパンとグラスが運ばれてきて、スタッフがボトルからシャンパンを注いでいく。シュワシュワと泡を立てながら美しい黄金色のシャンパンが2つの細長いグラスに注がれると、「ではごゆっくりお楽しみください」とスタッフがにっこりと微笑んで、キッチンへと戻って行った。

「じゃあパーティーが無事に終わってお疲れさまということで乾杯するか」

副社長にそう言われテーブルの上のシャンパングラスを持つ。

「お疲れ」

副社長はグラスの脚を持って乾杯するように少し高く持ち上げると、美しい仕草でシャンパンを口に入れた。
私も同じようにグラスを口につける。

「ああ、美味しい。やっぱりヴィンテージは旨いな」

「わぁ、ほんとだ! すごく美味しい……」

確かにお酒をよく知らない私でもわかるくらい美味しいシャンパンだった。口に含んだ瞬間、きめ細かい泡が口の中に広がり、ほどよい酸味と果実の芳醇な香り、蜂蜜のようなまろやかな風味も感じられる。
私の表情を見た副社長がクスリと笑った。
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