月に魔法をかけられて
「いや、そうじゃなくて。ほんとにわからない?」

「はい。わからないです」

「聡が言ってただろ。こういう場所ではあまり役職で呼ぶなって」

「あっ!」

そうだった!と思いながら両手で口元を押さえる。

「すみません。そう言えばそんなことを言われてたような……。本当にすみません」

私は慌てて頭を下げた。

「思い出したんならいいけどさ。だからわかった? こういう場所では呼ばないように」

「わかりました。ほんとにすみません副社長。あっ……」

つい名前が出てしまい、ますます小さくなりながら頭を下げる。

「じゃあさ、今からは聡が言ったように下の名前で呼ぶことにしよう」

「えっ?」

再び目を見開きながら思いっきり首を左右に振る。

「無理です。絶対無理です」

「もし役職で呼んだらペナルティな」

「ペ、ペナルティって……」

「そうだな。ペナルティは……グラスの中の酒を全部飲むということにしようか。まあ酒だったらなんでもいいことにしよう。いつものジュースみたいな酒でもいいぞ。好きな酒にしてやるからそれは安心しろ」

「そんなの無理です。私あんまりお酒が強くなくて。今もなんだかふわふわしちゃってるし……」

「下の名前で呼べば酒を飲む必要がないから大丈夫だろ。役職で呼ばなければいいんだから」

「そんな……」

副社長はニヤッと意地悪っぽく私に笑顔を向けた。
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