月に魔法をかけられて
「美月?」

ふいに名前を呼ばれてびっくりして顔をあげる。

「そんなびっくりした顔しなくても」

副社長が目を細めながらフッと口元を緩めた。

「美月だけが俺の名前を呼ぶのはフェアじゃないだろ? だから俺も名前で呼ぶな」

ニコッと向けられる整った笑顔。
その笑顔にドクン──と胸の音がいち早く反応した。

この人のせいでこんなにも悩まされているというのに、その笑顔がとても優しく思えてしまう。

「美月、どうして急に無口になるんだ? さっきまであれだけ美味しそうに飯を食って話をしてたじゃないか」

「だってそれは副社長が……」

しまった……と思い、慌てて口を押える。

目の前にはニヤッと意地悪な笑みを浮かべる副社長がいた。

「美月、今、呼んだよな?」

楽しいおもちゃで遊んでいるかのように私の顔を覗きこむ。

「はい……。呼びました……」

「何が飲みたい? 新しいジュースのお酒でも頼むか?」

副社長は嬉しそうに目を輝かせながら私の前にメニューを差し出した。

「いいえ。大丈夫ですぅ! このスパークリングワインを飲みますー!」

私は拗ねたように語尾を強く言いながら、グラスに残っていたスパークリングワインを全部飲み干した。
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