月に魔法をかけられて
空になったグラスをテーブルの上に置くと、私は頬を膨らませてじっと睨むように副社長を見つめた。

絶対わざとだ。
この人はわざと私に誘導するような質問をして、名前を呼ばせようとしたはずだ。

4月から秘書をしてきて、この人のことをずっと見てきたんだから、副社長の性格なら絶対にありえる。

なんでこの笑顔を優しい笑顔だなんて思ったのだろう。
ちっとも優しくなんかないし意地悪なだけだ。

意地悪? 
ううんそれもあるけど策士だ。
この笑顔の下には私を困らせて楽しむ意地悪で策士な顔が隠れている。

このままだとどんなに気をつけていたとしても、きっと「副社長」と口に出してしまうはずだ。
そしたら何度もお酒を飲む羽目になってしまう。

「どうした美月? もしかしてその顔は俺のことを睨んでるつもりなのかもしれないが、ただ頬が丸くなっただけだぞ。グラスが空になったから新しい酒でも頼むか?」

クククッと笑いながらメニューを見せようとする。

「いいえ。このスパークリングワインで大丈夫です」

副社長がニヤニヤとしながら私のグラスにスパークリングワインを注ぐ。グラスにワインが注がれたところで、私は恐る恐ると口を開いた。
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