月に魔法をかけられて
「あの……ひとついいですか?」

躊躇いながらも副社長の瞳を見つめて窺うように首を傾ける。

「んっ? なんだ?」

「こんな風に名前で呼び合うってことは……私との関係は……もう今からは上司と部下ではないって思ってもいいですか?」

「えっ?」

副社長がとても驚いたような顔をして私を見つめた。

「美月がそのつもりなら俺はそれで構わないけど……」

今度はなぜか照れたような顔を私に向ける。

「上司と部下ではなく、ひとりの男性と女性ってことですけど……それでいいですか?」

「ああ、いいよ」

「ほんとにほんとですね? あとから『やっぱり違う。上司と部下だ』とか言わないでくださいね!」

「絶対に言わないよ。美月もそれでいいんだな? あとから『やっぱり上司と部下の方がいい』と言っても俺は絶対に認めないし、誰にも譲らないからな」

「私は絶対大丈夫です。よかった……。ありがとうございます」

両手を胸にあてながら大きく頷いて、ふぅーと息を吐く。

そして──。

「では、役職を言ったときのお酒を飲むペナルティなんですが、毎回グラスの中のもの全部は飲めないので、もし役職を言ってしまったときは、ひと口だけ飲むことにしますね。さっき約束してもらった通り、今からは上司と部下の関係ではないんですから、命令に従わなくてもそれは大丈夫ですよね?」

ドキドキしながら窺うように副社長の顔を見つめる。

すると、副社長がむちゃくちゃ機嫌が悪そうに私に視線を向けた。

「はぁぁぁあ───?」

「やっぱり違うって言わない約束ですよね。私、さっき確認しましたから!」

私もここは引き下がれず、断られないように必死で抵抗する。

「お、お前さぁ、なんだよそれ……」

副社長は項垂れるように大きな溜息をついた。
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