月に魔法をかけられて
副社長は先ほどの楽しそうな顔とは一転して、項垂れたまま頭を抱えている。

「副社長……?」

私は心配になり副社長の顔を窺うように覗きこんだ。

「美月お前……まぎらわしいんだよ……」

副社長はゆっくりと顔をあげて、ひとりごとのようにそう呟いたあと、再び大きな溜息をついた。

「まぎらわしいってどういうことですか?」

目の前でがっくりとしながら項垂れている理由がわからず、首を傾げる。

「はぁ……マジで天然かよ……」

呆れたような諦めたような視線を私に向けながら、副社長はグラスに入っていたスパークリングワインを一気に飲み干した。

「こんなトラップを仕掛けられるとは……マジかよ。酒でも飲まないと収まらねぇ……」

副社長はスタッフを呼んでメニューをもらうと、ぶつぶつ言いながら辛口の白ワインを注文した。すぐに白ワインが運ばれてきて新しいグラスに注がれると、そのままグラスを手に取り、口につけた。

「一気に酔いが覚めたな」

髪をかきあげながらそう言い放つと、涼しい瞳を私に向けた。

「わかった。美月の言う通り、酒はひと口でいいとしてやる。その代わり俺も容赦はしないからな」

「わかりました。ありがとうございます」

「じゃあさっそく……。さっき俺のことを役職で呼んだだろ? 酒、ひと口な」

「えっ? 私呼びましたっけ?」

「ああ、呼んだ。俺はしっかり覚えているぞ。はい美月ちゃん、ひと口どうぞ」

意地悪そうな笑顔を浮かべて副社長が私のグラスに向けて右手を差し出す。私は言われるがまま、スパークリングワインをひと口飲んだ。
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