月に魔法をかけられて
「美月乗って。送っていく」

「大丈夫です。副社長が乗ってください。お家も反対方向ですし……」

そう断りを入れ、肩に掛けられた上着を返そうと両手で襟をつかむ。その瞬間、足の力が抜けたのかバランスを崩してしまい、足元がふらっと揺れ、倒れそうになった。

「おい、大丈夫か?」

副社長がすかさず抱き留めてくれる。
ふわりとフレグランスの香りが漂い、ドクンと胸が跳ね上がった。副社長の腕の中で、私の鼓動がどんどん大きくなっていく。その腕の中から離れようと思っているのに、お酒のせいか身体が思うように動かない。

それに男の人が怖いはずなのに、こんなことされたら突き返してしまうはずなのに、これもお酒のせいなのか、それともこの香りのせいなのか、なぜか私は心地よく感じていた。

「悪い……。調子に乗って飲ませすぎたな。送っていくから早く乗って……」

「私は大丈夫です……」

そう言いながらも副社長の腕に支えられ、しっかりと立つことができない。

「どこが大丈夫なんだ。ほら、早く乗るぞ」

副社長は私をタクシーに乗せると、すぐに自分も乗り込んできた。

「木場を経由して品川までお願いします」

運転手さんにそう告げると、すぐにタクシーは動き始めた。
< 151 / 347 >

この作品をシェア

pagetop