月に魔法をかけられて
タクシーに揺られながら私は何度も目を瞑りそうになっていた。車の揺れがとても心地良く、車内の暖かさもあって、気づかないうちに何度も頭がカクンと落ちてしまうのだ。私はどうにか眠らないように左手の甲を右手で繰り返し抓りながら、眠気と戦っていた。

「美月、寝てていいぞ。着いたら起こしてやるから」

副社長が柔らかい眼差しで見つめながら静かに口を開く。

「いえ……大丈夫です……」

「大丈夫じゃないだろ。眠いんだから我慢するな。ほんとに寝てていいから」

「ほんとに大丈夫です……」

副社長は私を優しく自分の肩に引き寄せると、そのまま包み込むように私の頭に触れた。そして反対の手で、抓って真っ赤になった私の左手をそっと握ると自分の膝の上に置いた。その大きな肩と手の温もりに、私は副社長の肩に寄りかかったまま、夢の中へと落ちていった。
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