月に魔法をかけられて
「聡、悪い。待たせた……」

急いできたのか、少し疲れているような声だ。
石川さんのお友達もやっぱりイケメンだったりするのだろうか。
そう思って振り返ったあと、私は慌てて顔を前に戻した。

えっ? どういうこと?
どうしてこの人がここにいるの………?

暑くもないのに急に変な汗が手のひらにじわじわと出てきて、心臓がドクドクと音を立て始めた。

「壮真。お前遅いぞ」

「悪い。今日はなかなか会食が終わらなくて。いつも長げーんだよ、あの人。あー、マジで疲れた……」

そして、その男性は通りがかったスタッフにビールを注文すると、片手でネクタイを緩めながら石川さんの横に座った。

「聡、知り合い?」

椅子に座った男性が私たちの顔を見る。

「お疲れさまです……」

私は気づかれる前に、消え入りそうな声で、視線を合わせないように頭を下げた。
< 21 / 347 >

この作品をシェア

pagetop