月に魔法をかけられて
すると副社長に抱きかかえられていた啓太くんが足をバタバタさせながら副社長の腕をすり抜け、私のそばへとやって来た。

「みづきー。きょうもここにいるの?」

小さな可愛い顔を私に向けて尋ねる。

「うん。今日もここにいるよ」

「やったぁ。じゃあぼくみづきといっしょにいるー」

そう言ってベッドの中に入ろうとして、瞳子さんに身体を捕まえられた。

「ママいやだぁ。ぼくはみづきといっしょにいるぅー」

「啓太、お姉ちゃんはね、これから壮真とお話があるの。あっちでママと一緒にテレビ見よっか」

瞳子さんが啓太くんを連れて行こうとするけれど、啓太くんは私の腕を掴んで離さない。

「啓太、パパと一緒にアイス食べるか? 啓太が来ないならパパがひとりで食べようかな」

今度は直人さんが啓太くんの気を引こうと啓太くんに話しかける。

「あいす?」

「そうだよ。啓太の大好きなチョコレートのアイスだよ。啓太食べないのか。じゃあパパが啓太のアイスも食べちゃうよ」

「やだよぅ。ぼくもパパとあいすたべる」

啓太くんはそう言って私の腕を離すと、直人さんの手を掴んだ。直人さんは瞳子さんに目配せすると、啓太くんの気が変わらないうちに、啓太くんを連れて部屋から出て行った。

「壮真、私たちはリビングに戻っているから、話が終わったら美月ちゃんと一緒に来て」

瞳子さんは真剣な顔をしてそう告げると、部屋から出て行った。
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