月に魔法をかけられて
瞳子さんが出て行って、副社長と2人きりになる。
副社長がゆっくりと私に近づいてきた。

「隣、座ってもいい?」

ベッドの隣に視線を移しながら尋ねる。私が頷くと副社長がゆっくりと私の隣に座った。

「俺が近くにいると……怖い?」

つらそうな顔をして瞳を揺らしながら私を見つめる。
私は薄っすらと笑みを浮かべて左右に首を振った。

「美月、怖かっただろ……。つらかったのによく頑張ったな……」

私が怖くないように気遣いながら口角をあげて笑顔を作る副社長。その言葉を聞いて、ずっと我慢していたものが一気に溢れ出るように涙がぽろぽろとこぼれてきた。

両手で何度拭っても涙が次から次へと溢れてくる。

「怖かったよな……美月……。本当に怖かったよな……」

優しく頭を撫でるように髪の毛に触れる。

「大丈夫? 怖くない?」

そう聞かれるものの涙が溢れて声にならない。
私は返事をする代わりに再び頷いた。

「良かった」

副社長はにっこりと微笑むと、私の頬に触れて親指で涙を拭ってくれた。

「美月、抱きしめてもいいかな? それは怖い?」

優しい笑顔のまま私の瞳を見つめて尋ねる。
私が何も答えないまま副社長を見つめていると、副社長はゆっくりと私を自分の腕の中へ抱き寄せた。
ふわりと柔らかな檜のフレグランスが香り、瞬く間に安心感に包まれる。

「美月、怖かったよな。つらかったよな……。ごめんな。助けに行くのが遅くなって……。もう大丈夫だから。これから俺がお前を守ってやるから。だから安心していいからな。もう二度と美月が怖がるような目には俺が合わせないから……」

不安を取り除いてくれるような優しい言葉に、私は副社長の腕の中で、温もりを感じながら涙を流し続けていた。
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