月に魔法をかけられて
「け、啓太の前で山内さんって言ったら、啓太が混乱するだろ……。だから啓太に分かるように『美月』って呼んでるんだよ」

「啓太が混乱するねぇ……。なかなかよくできた理由だこと。まあ、そういうことにしておいてあげるわ」

瞳子さんはニヤニヤと笑みを浮かべながら、「啓太、こっちにいらっしゃーい」と啓太くんを呼んだ。

「啓太、これから壮真と美月ちゃんがお買い物に行ってくれるから、ママと一緒にお家で待ってましょ。壮真がね、啓太の大好きなイチゴのケーキ買ってきてくれるって」

瞳子さんがしゃがんで啓太くんの目線に合わせ、両肩に手を添えてニッコリと微笑んだ。

「やだぁ。ぼくもみづきといっしょにいくー」

啓太くんが顔を大きく左右に振りながら、瞳子さんに抵抗する。

「だーめ。啓太はママと一緒にお留守番だよ。いい子で待ってようね」

「やだぁ。やだぁ。ぼくもみづきといっしょにいくー。いきたいよぅ」

「啓太、そんなに泣かないの。啓太、男の子だから強いんだよねー」

瞳子さんが一生懸命なだめるものの、啓太くんは大きな涙を流しながらワンワンと泣いている。

そんな啓太くんを見ていると可哀想になってきた。

「瞳子さん……。啓太くんも一緒に連れて行ってもいいですか? 危なくないように気をつけますから……」

私は窺うように瞳子さんの顔を見た。
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