月に魔法をかけられて
本殿へと向かう行列はなかなか進まず、少し進んでは止まり、止まっては進みの繰り返しだった。

「これだと参拝できるのが何時になるかわからないな」

斜め上から副社長が優しく微笑む。

「そうですね……。この行列だと帰るにも帰れないですよね……」

「だな……」

「そうは言ってもせっかく来たからやっぱり参拝しないと……。あっ、副……壮真さん……。参拝が終わったらおみくじ引いてもいいですか?」

「おみくじ? いいよ。美月は初詣でおみくじとか引くんだ?」

「やっぱり新年のおみくじって今年はどんな年になるのかなって思ってしまうし……。でも悪かったらへこんじゃうので、その時はあんまりおみくじの内容を読まないようにしてますけど……」

苦笑いを浮かべて副社長を見ると、副社長は抱き寄せた方の手で私の髪の毛に触れながらクルンと指を絡ませた。

ビクン──と反射的に身体が反応する。
それは怖いというよりドキドキする感覚だった。
触られている場所が徐々に熱を放ち始める。
今度は髪の毛に意識が飛んでしまい、会話に全く集中できなくなってしまった。
そんな私のことなんて全く気にする様子もなく、副社長は私の髪の毛を自分の指にクルクルと絡ませて遊びながら、普通に視線を向けた。

「俺はおみくじとかはあんまり気にしないな」

どうやら無意識に私の髪の毛で遊んでいるようだ。

「副社……壮真さんは……おみくじ引いたりされないんですか?」

必死で気持ちを話に集中させながら会話を続ける。

「うん。記憶にないな……」

「じゃ、じゃあ……一緒に引きますか……?」

「そうだな。一緒に引くか……って言っても、俺も悪かったら気にしてしまいそうだよな」

なんとか平静を保ちながら並んでいると、次第に本殿へと近づいていき、やっと私たちが参拝する順番が回ってきた。

私はお財布からお賽銭を取り出し、賽銭箱に入れて鈴を鳴らすと、参拝の作法通り二礼二拍手をして、指先を揃えて手を合わせて目を瞑った。

そしていつものように昨年のお礼を言ったあと家族全員の健康を願うと、こっそりともうひとつだけお願いをした。


神様、願いごとはひとつだけって知ってるのですが、今回だけ……もうひとつお願いごとをさせてください。
隣にいる壮真さんが……いつか私のことを好きになってくれますように──。
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