月に魔法をかけられて
えっ…? ほっぺ……?

唇ではなかったことにがっかりしたような、緊張していたのに気が抜けたような、そんな気持ちで目を開ける。

私のそんな表情に副社長はニヤッと意地悪な笑顔を浮かべた。

「唇じゃなくてがっかりした?」

「そ、そんなことありません……」

心の中を見透かされているようで瞬く間に顔が熱くなる。

「美月、そんながっかりした顔するなよ。さっき啓太が美月にキスしただろ? だからまずは上書きな」

「えっ?」

「だってあいつ、俺の許可もなく美月にキスしたんだぜ。それも俺より先にだ。まだ5歳のくせにマセたガキだよな」

むっとした表情で私の右頬を人差し指で撫でる。

「啓太くんは子供じゃないですか……」

子供じみたような理由に思わずクスッと笑ってしまう。

「子供でも許されることじゃないだろ。ほんとにあいつは油断も隙もありゃしねえ」

副社長はそう言うと今度は私の左頬にキスをした。

「こっちの頬は俺が最初だけどな」

目元を柔らかくしてふわりと笑う。
そして──。

「美月……」

艶っぽい瞳で名前を呼ぶと、優しく頭を引き寄せて、私の唇に自分の唇を重ねた。
< 257 / 347 >

この作品をシェア

pagetop