月に魔法をかけられて
触れるだけの優しいキスなのに、副社長の唇の感触が身体中に伝わってきて、無意識に身体がピクンと反応した。

一瞬、副社長の唇が離れ、その瞬間、「んっ……」と色っぽい声が漏れる。自分の声じゃないみたいで、その恥ずかしさに身体全体が熱を持ち始める。私の反応に副社長は今度は角度を変えてキスを落とした。

しーんとしたリビングの中で、ちゅっ、ちゅっ……と小さなキスの音だけが響き渡る。頭に添えられていた手が私の耳をなぞり、首筋へと移動していく。
触れられた指先がゆっくりと耳から首筋へ流れていくにつれ、身体に電流が走ったようにゾクッと身震いが起きた。

「……あっ……んっ………」

再び声が漏れ、それと同時に今度は副社長の舌が口の中へ滑り込んできた。

キスって、ただ唇を重ねるだけのものだと思っていたのに……。

初めての感覚に、身体から力が抜け、私は副社長の胸の中へと倒れこんでいた。
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