月に魔法をかけられて
「美月」

名前を呼ばれ、そのまま引き寄せられる。
副社長は私を抱きしめると、耳元から掠れた声が聞こえてきた。

「俺の気持ち、全く気づいてもらえなかったうえに、勘違いまでされていたんだな……」

それはどことなく寂しそうで、憂いに沈んだ声で。

「壮真さん……」

私は副社長の背中にそっと手をまわした。
その瞬間、副社長の身体が驚いたようにビクッと反応し、抱きしめられている腕にぎゅっと力が籠った。

「美月……」

身体をゆっくりと離しながら頬に優しく触れる。

「キス……していい?」

形のいい唇の端をキュッとあげて艶っぽく私を見つめる。

「やっぱり……怖い?」

瞳を揺らしながら私の目の奥に問いかける。

「い、今は怖くないけど……わからない……」

「じゃあ怖かったら遠慮せずにすぐに突き返して。いい?」

こくんと小さく頷く。
副社長は口元を緩めて笑顔を見せると、ゆっくりと私に近づいてきた。心臓がドクンドクンと大きな音を立てて響き始める。
どうしていいのかわからず、思わず目を閉じると──。

チュッ──。

副社長の唇が私の右頬に触れた。
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