月に魔法をかけられて
「あぁぁぁあ、くそっ──!」
副社長はそう言葉を発すると、険しい表情で口をキュッと固く結び、腿の上で拳を握った。そのぎゅっと握りこまれた拳がブルブルと震えていて、必死で怒りを抑えているようだった。どうすることもできない状況に、副社長もきっと悔しくて仕方ないのだろう。
会社のことを考えると、今回の犯人は絶対に知られない方がいいことは、副社長だってわかっているはずだ。
これから会社のトップになろうとする人が、こんな一時的な感情で惑わされてはいけないからだ。
それなのに会社は自分が何とかするからと言い、私のために動いてくれようとした。私にはその気持ちだけでじゅうぶんだ。
そんな副社長の私への思いが伝わってくるからこそ、今回の事件は私から早く終わらせなければならない。
私は大きく深呼吸すると、もう一度口を開いた。
「聡さん、もうこの件はこれで終わりにします。私が被害者ですから、私が終わりって言ったら終わりますよね? だからもういいです。彼女も……武田絵奈も今回あの男たちが捕まるなんて思ってなかったはずです。いくら自分が行動的には関わっていないとは言え、あの男たちがもし警察で話してしまったらと思うと、彼女もきっと怖いはずです。あの男たちが捕まっている間は私には何もしてこないと思います。皆さんにご迷惑をかけて申し訳なかったのですが、これで終わりにさせてください。お願いします」
きちんと姿勢を正しながら頭を下げる。
その言葉に聡さんが頷いた。
「美月ちゃん、ほんとにいいの? 自分の手を汚していない武田絵奈だけは何事もなかったように普通にこれからも生活するんだよ?」
「わかってます。それでも仕方ありません。彼女が犯人だと知られてしまう前に早く終わらせてください」
「わかった。これで終わりにするように手続きするよ。ごめんね。力になれなくて……。この1ヶ月つらかったでしょ。本当にごめんね」
「そんなことないです。本当に色々とありがとうございました。たくさんご迷惑もおかけしてすみませんでした。私からも連絡しますが、彩矢にも伝えておいてください」
「わかったよ。彩矢もすごく心配してたから少しは安心すると思う。彩矢も美月ちゃんに会いたがってたからさ、少し落ち着いたら4人で食事にでも行こうか?」
聡さんは緊張が解けたのか、仕事モードだったのがいつもの砕けた感じに戻っていた。それに以前会ったときには彩矢のことを「彩矢ちゃん」と呼んでいたのに、今は呼び捨てになっている。
彩矢と順調に付き合いが進んでいるんだなということが感じ取れて、私はそのことがすごくうれしかった。
副社長はそう言葉を発すると、険しい表情で口をキュッと固く結び、腿の上で拳を握った。そのぎゅっと握りこまれた拳がブルブルと震えていて、必死で怒りを抑えているようだった。どうすることもできない状況に、副社長もきっと悔しくて仕方ないのだろう。
会社のことを考えると、今回の犯人は絶対に知られない方がいいことは、副社長だってわかっているはずだ。
これから会社のトップになろうとする人が、こんな一時的な感情で惑わされてはいけないからだ。
それなのに会社は自分が何とかするからと言い、私のために動いてくれようとした。私にはその気持ちだけでじゅうぶんだ。
そんな副社長の私への思いが伝わってくるからこそ、今回の事件は私から早く終わらせなければならない。
私は大きく深呼吸すると、もう一度口を開いた。
「聡さん、もうこの件はこれで終わりにします。私が被害者ですから、私が終わりって言ったら終わりますよね? だからもういいです。彼女も……武田絵奈も今回あの男たちが捕まるなんて思ってなかったはずです。いくら自分が行動的には関わっていないとは言え、あの男たちがもし警察で話してしまったらと思うと、彼女もきっと怖いはずです。あの男たちが捕まっている間は私には何もしてこないと思います。皆さんにご迷惑をかけて申し訳なかったのですが、これで終わりにさせてください。お願いします」
きちんと姿勢を正しながら頭を下げる。
その言葉に聡さんが頷いた。
「美月ちゃん、ほんとにいいの? 自分の手を汚していない武田絵奈だけは何事もなかったように普通にこれからも生活するんだよ?」
「わかってます。それでも仕方ありません。彼女が犯人だと知られてしまう前に早く終わらせてください」
「わかった。これで終わりにするように手続きするよ。ごめんね。力になれなくて……。この1ヶ月つらかったでしょ。本当にごめんね」
「そんなことないです。本当に色々とありがとうございました。たくさんご迷惑もおかけしてすみませんでした。私からも連絡しますが、彩矢にも伝えておいてください」
「わかったよ。彩矢もすごく心配してたから少しは安心すると思う。彩矢も美月ちゃんに会いたがってたからさ、少し落ち着いたら4人で食事にでも行こうか?」
聡さんは緊張が解けたのか、仕事モードだったのがいつもの砕けた感じに戻っていた。それに以前会ったときには彩矢のことを「彩矢ちゃん」と呼んでいたのに、今は呼び捨てになっている。
彩矢と順調に付き合いが進んでいるんだなということが感じ取れて、私はそのことがすごくうれしかった。