月に魔法をかけられて
新たな問題
犯人の逮捕、武田絵奈の契約解除ということで事件も終わり、いつも通りの平和な日常生活が戻ってきた。

いや、平和な日常生活が戻ってきたのは確かだけれど……。

プロポーズをしてくれた副社長は、あれからことあるごとに名古屋にいる私の両親に挨拶に行くと言い出し、それを思いとどまってもらうのがとても大変だった。

先に壮真さんのご両親の了解をもらってからじゃないとだめだと言うと、「うちの親は大丈夫だ。美月のことならひと目で気に入ってくれるよ。それよりまずは美月の両親に挨拶に行くのが筋だろ? お前なんかに美月は渡さないって言われたらどうするんだよ。先に美月の両親に了解をもらわないと俺は安心できない」と言い張り、全く私の言うことを聞いてくれなかった。

そこだけはどうしても譲れなかった私は、「それなら結婚は一度白紙にさせてください」と静かに告げると、「親父が今シンガポールに出張中で、そのあと今度はお袋が友達とパリに行くらしいんだよ。全くこんな時に2人とも海外なんかに行きやがって……。だから2人が揃うのが3月以降なんだよ……」と小さな子供のように悲しそうな顔をしながらも、やっと私の言うことを受け入れてくれた。


そんなこんなで2月も終わり、春の気配が感じられ始めたころ、珍しくあゆみちゃんから一緒にランチをしようとの連絡があった。

会社の近くにインドカレーのお店ができたらしく、ナンがモチモチでとても美味しいそうだ。

私はいつもより早めに会社を出ると、あゆみちゃんと待ち合わせたインドカレーのお店へ向かった。

「美月先輩ー。こっちですー」

既に席を取っていてくれていたあゆみちゃんが、お店の中から手を振る。

私はあゆみちゃんが座っているテーブルへと行き、席に座ると、ほとんどの人が食べている一番人気のバターチキンカレーを注文した。

「すごい人だね? もう満席なんだ……」

周りを見渡しながら、全ての席が埋まっていることにびっくりする。

ランチタイム時ということもあってOLさんより、サラリーマンの方が割合的には多い感じだ。

「そうなんです。ここ、ナンがすっごくモチモチで美味しくて……。そのナンの追加が無料だから、サラリーマンに人気みたいなんです」

あゆみちゃんは既に何度か来たことがあるようで、どのカレーが辛いとか、水曜日はレディースデーでデザート付きなど、色々と教えてくれた。
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