月に魔法をかけられて
席に座ると、瞳子さんが塩野部長の顔を見て目で合図をしたあと、私に真剣な顔を向けた。

「美月ちゃん、単刀直入に聞くわね。美月ちゃんの話って、壮真の解任要求の話?」

「はい、そうです」

「美月ちゃんの耳にまでもう入っているのね。壮真の様子はどう? なんか変化がある?」

「それが何も変化がなくて……。私もさっきあゆみちゃんに聞くまで知りませんでした。壮真さんは家でも仕事中も全くそんな素振りは見せてくれなくて……。だから心配になって瞳子さんに連絡させてもらいました」

そう言った瞬間、「あっ」と口を押える。

瞳子さんと話していることで、つい副社長のことを壮真さんと言ってしまった。

「大丈夫、ここは私たちだけだから。塩野部長も壮真と美月ちゃんのことは絶対に口外しないわ」

瞳子さんがそう微笑むと、塩野部長も苦笑いを浮かべて口を開いた。

「山内さん、心配かもしれないが私は藤沢社長の下でずっと仕事をしてきた人間だから、社長と副社長が不利になるようなことは絶対に阻止したいんだ。何かわかっていることがあったら教えてくれるかな? 事が大きくなる前に対処できるかもしれないからね」

塩野部長の言葉に、私は事件のこと、犯人の逮捕のこと、どうして武田絵奈のCM契約を勝手に解除したのかということを全て話した。

「えっ、あの2人組の男が犯人じゃなかったの? 指示していたのが武田絵奈? 武田絵奈が本当の犯人だったの?」

真相を知った瞳子さんが目を丸くして、初めて事件のことを知った塩野部長はその概要に驚いている。

「だから副社長が勝手にCM契約を解除したのは、私のせいなんです」

全てを話し終え、涙をいっぱい溜めた私の顔を見て、瞳子さんは優しい微笑みを浮かべてゆっくりと首を振った。

「これは美月ちゃんのせいじゃないから。私たちにも責任があることよ。だから自分のせいだなんて思わないで……」

「でもそれだと副社長が……。瞳子さん、副社長の立場が元に戻るのであれば、私、今回の事件のこと公表しても構いません。勝手にCM契約を解除したのではなく、理由があってしたことがわかれば、副社長の解任要求の噂はなくなりませんか? 副社長が言われてました。綺麗事かもしれないけれど、会社のイメージや株価も大事だけど、ひとりの社員を守れなくては社員全員を守れない。それは経営者として失格だって。社員が酷いことをされているのに会社のために我慢してもらうなんてやっぱり間違ってると思う。だからやっぱり会社が守ってやらなきゃだめなんだって……。副社長は本当に会社のこと、社員のことを大切に考えてらっしゃいます。社長の息子だから副社長になれたのではありません。4月からサポートをさせていただいていますが、真剣に業務に取り組まれ、陰で相当努力され、一生懸命頑張ってらっしゃいます。副社長としてふさわしい実力を伴った方です」

すると今まで黙っていた塩野部長が口を開いた。
< 313 / 347 >

この作品をシェア

pagetop