月に魔法をかけられて
「いや、そのことを話したところで、専務や常務は事件を隠していたことや、WEB CMのことをまた問題にしてくるだろう。どうにかして解任させようとするだろうからね。それより私は他のことで副社長の実力を認めさせることの方がいいと思う」

「他のことですか?」

「ああ。副社長として実力があるところを見せれば、何も言えなくなってしまうからね。そうだな……吉川チーフ、新ブランドの企画があったよな。それを今回の反撃に使ったらどうだろう? 失敗することは許されないが、成功すれば誰も何も言えなくなる。私は副社長の実力なら必ず成功させてくれると思うんだが……」

「新ブランド立ち上げのことですよね? それを早めるということですか?」

瞳子さんがいつになく難しい顔をして、塩野部長を見つめる。

「そうだね。こうなった以上早めた方がいいかもしれない。既にある程度ラインはできているだろう? 全てを一気に発売するのは難しいが、新ブランド誕生としてまずはひとつだけ限定品を作って先に売り出してみてはどうだろうか? 新ブランドのインパクトをつけるためにCMの契約を解除したとすればそれなりに理由はつくはずだ。まずは申し訳ないけれど、経緯を説明するために社長と内々に話ができないかな? 吉川チーフも同席してもらって……」

「わかりました。父と連絡取ってみます」

瞳子さんはそう言うと会議室の端に行って電話をかけ始めた。その間、塩野部長が私に視線を向ける。

「山内さん、準備を万全に整えるためにも、今回の事件のことを全て社長に話しても大丈夫かな?」

「はい。それで壮真さん……いえ副社長の立場が揺るがないものになるのであれば、全てを話していただいて構いません」

「わかった。ありがとう。おそらく副社長の思いが伝われば社長は安心してくださると思うよ。山内さんは今まで通りしっかりと副社長のサポートをしてあげて。表面的には変わらなくても、精神的にはつらいことも多いだろうから。男は特に大切な女性の前だと弱い姿は見せたくないものだからね」

「はい。わかりました。色々とありがとうございます」

塩野部長の言葉に顔が熱くなるのを感じていると、電話を終えた瞳子さんが戻って来た。

「塩野部長、明日の夜でしたら時間が取れるようです。私が会食場所を手配いたしますのでそちらにお越しいただけますか? 詳しい場所はこれから手配しましてご連絡いたします」

「わかった。では明日の社長との話し合いに備えて、どうにか専務たちの行動を阻止するべく、これからプランを考えておいた方がよさそうだね」

「そうですね。限定品を作るとすれば、何を限定品にするか、どのような限定をつけるかを考えないといけないですね」

塩野部長と瞳子さんはさらに難しい顔をして話を始めた。
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