月に魔法をかけられて
それにもうひとつ。
俺の親に対して美月が言ってくれたこと。

「私は昨年の4月から壮真さんの秘書として一緒に仕事をさせていただいてきました。確かに、愛想はそんなにいい方ではありませんが、壮真さんが努力され、勉強され、一生懸命仕事をされてきたのはこの一年で充分わかっているつもりです。仕事で辛いことや大変なことがたくさんあると思うのに、私には心配かけないようにとそんな素振りは全く見せず、愚痴ひとつこぼさず、自分の中で抱えて、ひとりで消化されています。そんな心の優しい壮真さんに少しでも安らげる場所を作ってあげることができるなら、私は壮真さんのそばで一緒に生きていきたいと思っています。私は一般家庭の人間ですし、壮真さんにとって何も得になることはありませんが、それでも私を必要としてくれるなら、壮真さんと一緒に生きることが私の幸せです。これから壮真さんと一緒に人生を歩んでいきたいと思っています。どうかよろしくお願い致します」


こんな風に俺を見てくれて、俺のことを理解してくれて、俺の休める場所を作ってくれようとしてくれて、そして、俺と一緒に生きることが自分の幸せだと言ってくれて──。

俺の全てを受け入れてくれている。

それを聞いた瞬間、ますます美月のことが愛しくて堪らなかった。


こんなに愛しいと思える女がいたなんてな……。
手放すことなんて絶対にできないよな……。


自然と笑みが零れる。


俺の秘書として美月を推薦してくれた塩野部長と瞳子には今は感謝しかない。

そんなことを思いながら、俺は美月と出会ったころのことを思い返していた。
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