月に魔法をかけられて
最初はこいつ、俺のこと相当嫌がってたんだよな。

仕事は本当にきちんとしてくれていたけれど、俺には必要以上に近づかず、必要最低限のことしか話もしなかったし。

でも女なんて面倒くさいと思っていた俺には、美月のあの距離感がとても心地よかったんだよな。

俺の周りには嫌気がさすほど媚びを売ってくるような女ばかりだったけど、美月だけは俺に全く興味も示さなくて、見向きもしなくて。

まあ、あんな辛い過去があったら、男の近くにいくのが怖くて仕方なかったっていうのは後から分かった話だけど。

ただ、他の男に見せる笑顔と俺に向ける笑顔が違うのだけはなぜかムカついてた気がする……。


俺が美月に惹かれ始めたのはいつだったんだろう?

初めて美月と2人で飯を食いに行ったときには、もう美月のこと気になっていただろ?

レセプションパーティーでJGデザインの後藤や、モデルのHAYATOが近づいてくるのも気に入らなかったし。

それより前か?

それより前と言えば……、CM撮影のときか?

いや、あの時ももうHAYATOと仲良くしていてイラついてた気はするよな……。

ということは──。
やっぱり、あの時か……。

聡たちが付き合うようになった日に、嬉しそうな顔をして2人が乗ったタクシーを見つめていたときだよな。

他人のことながら嬉しそうに見つめる横顔に惹かれて、なぜかあの時声かけたんだよな……。

やっぱり好きになったのは俺の方が先だな。


ところで美月はいつ俺のことを好きになってくれたんだろう?

俺よりも前ってことはさすがにないだろうし、レセプションパーティーの時も違うだろ?

2人で飯食った時もそんな感じはなかったし……。
あー、いつだよ……!

……って、そんなことが気になるなんて、俺は小学生かよ……。


美月に惹かれたのも、好きになったのも俺の方が先だけれど、美月と一緒に過ごすようになって分かったことがある。

美月がくれる愛情は、無条件に俺を丸ごと受け入れてくれる愛情だってこと。

そんな美月の大きな愛情に、俺の心はいつも救われているってこと。



「美月、大好きだよ。一緒に幸せになろうな……」

俺は気持ちよさそうに眠っている美月の寝顔にそっと呟いた。
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