月に魔法をかけられて
月に魔法をかけられて
「美月、ご両親への挨拶、今週末でもいいって言ってた?」

副社長のご両親に挨拶に行った日から2日ほど過ぎた夕食の時間、スキレットの中でまだじゅうじゅうと音を立てているハンバーグを口に運びながら副社長が私に視線を向けた。

「熱っ! うぉっ、旨っ! 」

熱そうに眉間に皺を寄せながらも美味しそうに口を動かす副社長を見て、私もうれしくて自然と笑顔が零れる。

「すげぇ、中からチーズが出てきた!」

子どものように喜ぶ笑顔を向けられ、私は幸せを感じながら同じようにハンバーグを口に入れた。

「わぁっ、熱っ……」

思ったよりも熱くて顔を顰めながら口元を押さえる。

「だろ? でもハンバーグはこのくらい熱い方が旨いよな。仕事が終わって帰ってきたら家でこんな熱々のハンバーグが食えるとは、俺本当に幸せだな」

ニコッと微笑みを向けてハンバーグの横に添えてあるブロッコリーを口に入れた副社長は、「これも熱っ……」と言いながら、冷たいお茶に手を伸ばした。

「あー、熱かった……。それで美月、ご両親への挨拶は今週末でも大丈夫?」

シャキシャキのコーンがたくさん入ったポタージュスープをスプーンで掬いながら私の顔を見る。

「そ、それなんですけどね……。ゴールデンウィーク……、5月3日でもいいですか?」

私は窺うように恐る恐る視線を向けた。

「5月3日? まだ1ヵ月近くあるじゃん……。もしかして美月の両親、俺と結婚するのあんまり快く思ってないとか……?」

心配そうな表情を向ける副社長に、私は慌てて首を振った。

「そんなことありません。すごく喜んでくれてます。もうびっくりするくらいに……」

「じゃあどうして……」

「新ブランドが発売されてからの方がいいかなと……」

「新ブランド? 関係ないだろ?」

明らかに不機嫌になった副社長に、私は珍しく少し厳しい視線を向けた。
< 343 / 347 >

この作品をシェア

pagetop