月に魔法をかけられて
「関係なくはありません。今回、新ブランドの立ち上げには多くの人の協力があるし、みんなが期待をされています。それをきちんと見届けてからじゃないと……。壮真さんのご家族が作られた大切な会社です。また専務や常務に妨害されたらと思うと心配ですから」

「俺だってそれは分かってるよ。専務や常務の行動には常に細心の注意を払っている。今回の新ブランドの前評判もいいし、あの2人ももう何もできないだろう。それより、美月の両親が心配してるだろ。大切な一人娘なのに、俺がなかなか挨拶も来ないって……」

「うちは大丈夫です。仕事が落ち着いてからでいいから、それよりきちんと壮真さんのサポートをしなさいって言われました。それにもし両親が反対したとしても、私が好きなのは壮真さんですから。壮真さん以外は嫌ですから」

そう言い切ったあとで、副社長が口元を緩ませてニヤけているのを見て、自分も顔が赤くなった。

「美月、今そんなこと言うの反則だろ。それに言った後で真っ赤な顔しやがって……。そんな顔されたら今日は早めにベッドに入らないといけなくなるだろ」

「な、何を言って……」

さらに真っ赤になって言い返す私に、副社長はキュッと口端をあげた。

「ありがとな。いつも俺のことを最優先に考えてくれて」

目を細めて柔らかい笑顔を向ける。

私の大好きな表情だ。

「ううん。壮真さんのこと大好きだから」

私も笑顔を向けて小さく首を横に振る。

「だからな美月、飯食ってるときにそんなこと言われたら、今すぐベッドに連れて行きたくなるだろ? ほんと、美月って無意識に男を喜ばすよな。俺以外の男にそんな顔して好きだとか言うなよ!」

呆れたようにため息を吐く副社長に、私もずっと心配だったことをひとつ言い返した。

「そ、壮真さん以外に好きとか言いません! 壮真さんだから言うんです。それより壮真さんもそんな笑顔、私以外に見せないでくださいね。私もすごく心配なんです……。壮真さんの笑顔見たら、みんな壮真さんのこと好きになっちゃうから……」

つい勢いで言ってしまったため、自分の言ったことが恥ずかしすぎて、俯いてしまう。

これじゃあ、やきもちいっぱいで副社長に告白しているようなもんじゃん……。

「うれしいこと言ってくれるよな。心配しなくても俺には美月以外目に入らねえよ。俺が笑顔を向けるのは美月だけだから」

副社長は再び口端を上げて柔らかい笑顔を私に向けた。

その笑顔に、胸の奥がきゅうっと反応する。

私は自分の恥ずかしさを隠すように、話題を変えた。
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