月に魔法をかけられて
「そ、それより壮真さん、新ブランドですけど、コンパクトタイプのフェイスパウダーなんですよね。もうほぼ決まったって言われてましたけど……」

「ああ。デザインは決まってたんだけどな……。この間美月の話……、じいちゃんが教えてくれた月の女神の話を聞いてから、月の女神が光を照らして花が輝くようなデザインに少し変更しようということになってな。そのデザインだと、ルナ・ボーテの新ブランドとして意味があるだろ?」

「わぁ。そうですね。話を聞くだけでわくわくしちゃう……」

「フェイスパウダーは、粒子をとても細かくして肌に溶け込むようにしたんだ。毛穴やくすみはもちろんのこと、艶やハリにもこだわってきめ細かい素肌感を重視したから、かなりいいと思うんだけどな」

「新色コスメの時より人気出そうですね。それと癒し効果でパウダーに少し柔らかい香りもついてるんですよね? 予約もかなり入ってるって瞳子さんがこっそり教えてくれました」

「みたいだな。前評判はいいみたいだけど、こればっかりは発売されるまで怖いよな」

副社長が心配そうに眉をひそめる。

「そうですけど……。でも月の女神が光を照らして花が輝くっていうのをCMで表現したら結構話題になるんじゃないかな。新ブランドの宣伝にもなるし、なんだか月の女神に魔法をかけられてるみたいで……」

「なるほど! それいいかもな。フェイスパウダーを全面的に出そうと考えていたけど、女神が魔法をかけるイメージのCMだと話題になりそうだよな。明日、塩野部長たちと話してみるよ。美月、さすがだな」

「そんなことないです。私はただ思ったことを言っただけで……」

私が首を左右に振っていると──。

「美月、早く飯食って、風呂入って、寝る準備しよ。遅くなったら1回しかできなくなる」

「えっ? はい? 1回……? も、もう、壮真さん……」

ニヤニヤしながらごはんを食べる副社長。

私は真っ赤になったまま、ポタージュスープを飲み干すのが精一杯だった。
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