月に魔法をかけられて
タクシーを降りると聡が店の前に立って待っていた。

「どうしたんだよ。先に入って待ってればいいのに」

「いや、実はさ……」

聡はバツが悪そうな顔をしながら、店の中に先週ウェスティンのバーで出逢った女性がいることを告げた。

「はぁ? 彼女と一緒に飯食う約束してるなら電話した時に言えよ。なんで俺がお前のデートの邪魔をしないといけないんだよ。俺は帰るぞ」

「頼む壮真。今回だけでいいから付き合ってくれよ。俺だけだとどうしてもやっぱり緊張してしまうんだよ」

「お前高校生かよ。いや、最近の高校生の方が断然しっかりしてるよな……」

「うるせぇー」

俺はフッと笑みをこぼした。
そう言えば聡は昔から好きな女の前ではヘタレだった。

こいつのルックスなら相当モテるし、女の扱いにも慣れているだろうに、好きな女の前になるとどういうわけかこんな風にヘタレになってしまう。
まあ、こういうところがこいつの人間らしいところでもあり、残念な部分でもあるが……。

俺は聡にジロリと視線を向けて「今回だけだからな!」と告げると、聡は嬉しそうに 「サンキュー」と答えた。
そして店の扉を開けた時、聡が思い出したように俺に視線を向けた。

「壮真。中には彩矢ちゃんと一緒に美月ちゃんもいるから。よろしく!」

「はっ? どういうことだよ。お前早く言えよ!」

喜んで彼女の元に向かっている聡にはそんな俺の言葉は聞こえるはずもなく──。
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