月に魔法をかけられて
「急にごめんね。2人でごはん食べているところにお邪魔して」

聡が彼女の横に座り、秘書に言い訳をしている。
秘書はというと──。
そりゃー、引き攣るよな。

秘書は俺の顔を見た瞬間、顔を引き攣らせたまま固まっていた。

「彩矢ちゃんから美月ちゃんと一緒にごはんを食べてるって返信が来たときに、ちょうど壮真から羽田に着いたって連絡があったんで、一緒に連れてきたんだ」

にこやかに話す聡と、その隣で嬉しそうに聡の顔を見つめる彼女。

「そっ、そうだったんですね。お疲れさまです……」

顔を引き攣らせながら愛想笑いを浮かべる秘書。

そんなに俺のことが苦手なのかよ。

秘書には全く興味はないが、ここまで拒否られると少し悲しくもなってくる。
注文したビールが届き、喉を潤したところで、聡が先週の金曜日のことを話題に出した。

「美月ちゃん、先週はごめんね。こいつ大変だったでしょ」

「えっ……。あっ、いえ……大丈夫です……」

「本当にごめんね。俺が壮真のことを頼んだばかりにさ、美月ちゃんにはすごく迷惑をかけてしまって……。それでこいつ、ちゃんと謝った?」

秘書は苦笑いを浮かべたまま、否定も肯定もしない。
ということは、やっぱり秘書が俺をホテルに連れてったのか?
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