月に魔法をかけられて
「瞳子さん、そんな絵コンテの説明をされても、私ほんとにほんとに無理です。こんなのできません……」

私は半泣きになりながら瞳子さんに訴えたのだけれど。

瞳子さんは「大丈夫、リハなんだから。ほんとに撮るわけじゃないんだし」と言って取り合ってくれない。

瞳子さん、これは何かの罰ゲームですか?
こんなの無茶ぶりすぎます……。
そんな私の心の声なんて届くはずもなく──。

「美月ちゃん。リハするわよ」

「美月先輩スタンバイお願いします。HAYATOさんももうすぐ来られますよ」

「俺が美月さんの相手役やりたいよ」

瞳子さんもあゆみちゃんも田村くんも、好き放題なことを言っている。

「瞳子さん、私ほんとに無理です。それより私がこんなことしてたら副社長に怒られてしまいます。私、早く会社に戻らないといけないのに……」

今度は副社長の名前を出して訴えてみたけれど、瞳子さんはというと。

「多分副社長は何も言わないと思うわよ。まあもし何か言ってきたとしても、私がちゃんと副社長に言うから。美月ちゃんは心配しなくて大丈夫よ。逆に可愛い美月ちゃんに惚れちゃうかもよ」

フフッと楽しそうに笑顔を浮かべて怖いことをサラリと言う。

瞳子さん、副社長に意見を言うつもりですか?
相手は副社長ですよ!
それに──。
副社長が私に惚れるなんて絶対にありえませんから。
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