月に魔法をかけられて
「瞳子さん、そんな絵コンテの説明をされても、私ほんとにほんとに無理です。こんなのできません……」

私は半泣きになりながら、瞳子さんに訴えたのだけれど……。

瞳子さんは「大丈夫よー。リハなんだからー。ほんとに撮るわけじゃないんだし」と言って取り合ってくれない。


瞳子さん、これは何かの罰ゲームですか?
こんなの無茶ぶりすぎます……。


そんな私の心の声なんて届くはずもなく……。


「はい、美月ちゃん。リハするわよ」

「早く、美月先輩スタンバイしてください。HAYATOさんももうすぐ来られますよー」

「あー、マジで俺が美月さんの相手役やりてー」

瞳子さんもあゆみちゃんも田村くんも、好き放題なことを言っている。

「瞳子さん、私ほんとに無理です。それよりなにより、私がこんなことしてたら副社長に怒られてしまいます。私、早く会社に戻らないといけないのに……」

と、今度は副社長の名前を出して訴えてみたけれど、瞳子さんはというと

「多分副社長は何も言わないと思うわよ。まあもし何か言ってきたとしても、私がちゃんと副社長に言うから。美月ちゃんは心配しなくて大丈夫よ。
逆に、可愛い美月ちゃんに惚れちゃうかもよ」

フフッといたずらっ子のような笑顔を浮かべて怖いことをサラリと言う。


えっ、瞳子さん、副社長に意見を言うつもりですか?
相手は副社長ですよ。副社長……。
それに、副社長が惚れるなんて絶対にありえませんから……。
< 94 / 347 >

この作品をシェア

pagetop