月に魔法をかけられて
慌てて視線を別の場所へと逸らす。

今、目が合った?
ううん。合ってない。合ってないはず……。
私すぐ目を逸らしたもん。
向こうは目が合ったって思ってないよね?

心の中で自問自答していると。

「山内さんの恥ずかしそうな笑顔に、本気で恋しちゃいそうになりましたよ」

目の前に座っているHAYATOさんが声をかけてきた。

「えっ……?」

頬に手をあてたまま目を瞠ってHAYATOさんに視線を向ける。

「山内さんのおかげで何となくイメージが掴めたような感じだし。あと数回リハをお願いしてもいいですか?」

爽やかな笑顔でHAYATOさんは私を見つめる。

「えっと……まだリハをするんですか……?」

「手を頬にあててる姿も可愛いですね。次はそのバージョンでいきます? あっ、でもメイクがメインだから、手で頬を隠してたら新色メイクの宣伝にならないですよね……」

照れ笑いを浮かべたHAYATOさんに連られるように、私も頬を緩めた。

「美月ちゃん、モニターチェックしたけどなかなかいい感じよ。あと2回リハをお願いするわね。HAYATOくん、あと2回のリハで絵奈さんが来るまでだいたいのイメージは掴めるかしら?」

いつの間にか私たちが座っているセットの椅子の近くに瞳子さんがやってきて指示を出す。

「大丈夫です。山内さんのおかげでイメージが掴めました」

瞳子さんは「HAYATOくんにそう言ってもらえてよかったわ。ではあと2回、これから始めるわね」と言ってニコッと微笑んだ。
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