乙女ゲームの断罪エンド悪役令嬢に転生しました ~超弩級キャラのイケメンシークがお買い上げっ?!~

6.「わたしを信じてほしい」と、あなたは言った

「不存在の立証だと? 悪魔の証明だな。なんとレベルの低い言いわけだ。くだらない」

 シークが、より強い目つきで睨みつける。
 鋭い眼光を向けられただけで、モブ獄卒兵が縮み上がった。
 シークがビクビクするモブ獄卒兵に向かって、強い語調でこう言い切る。

「まあいい。不存在でも、私には容易に立証できる。貴様ら、さっさと出て行け! 目障りだ!」

「ちっ……お、覚えてろ……」

 モブ獄卒兵が恨みがましい顔で捨て台詞を吐き、これみよがしに南京錠を施錠した。
 そのまま姿を消すと、シークが鉄格子越しにローゼマリアを凝視してくる。
 ローゼマリアは、手足が痺れて動けず寝転がったままだ。

 いったいどういうなりゆきなのか、鉄の棒の間からシークに視線を向ける。
 彼が鉄格子の前まできて、驚くほど優しい笑みを浮かべた。
 神々しいまでに整った容貌を間近で見て、ローゼマリアは言葉が出なくなってしまう。

「大丈夫か? ローゼマリア」

 名を呼ばれ、やっと我に返った。

「は、はい」

 ゆっくりと起き上がり、ローゼマリアも鉄格子の近くまでよたよたと近づく。
 それから、もう一度彼の顔をまじまじと見た。

「あなたは……」

「わたしの名はジャファル。あなたを必ず助けよう」

 モブ獄卒兵に対する態度とはうってかわって、甘くて温和な声の響き。
 ローゼマリアの心がどんどん落ち着いていく。
 それでも身体の震えは、なかなか止まらなかった。

「なぜ……?」

 シーク……ジャファルは艶やかに笑うと、鉄格子の隙間から節くれ立った指を伸ばしてきた。
 そっとローゼマリアの乱れた金髪を指で梳く。

 モブ獄卒兵に触れられたときは恐ろしくて身を震わせたが、人情味あふれた声色と表情のジャファルには恐怖を感じない。
 彼の繊細で優しい指が、二度ほどローゼマリアの金色の髪をクルクルと弄ぶ。

「本当は、すぐにでもあなたをここから出してあげたい。しかし強引にここから連れ出しても、またしても意味のない冤罪をかけられるだろう」

(このひとは、わたくしに罪がないとわかってくださっている……どうして? 一体なにものなの?)

 彼の指が鉄格子から抜けてしまうと、途端に物寂しい気持ちになってしまう。

「あなたが二度とくだらぬことに巻き込まれぬよう、私がしっかりとした手続きを踏んでくる。明日まで待ってくれないか?」

「本当に……?」

「ああ。わたしを信じてほしい」
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