乙女ゲームの断罪エンド悪役令嬢に転生しました ~超弩級キャラのイケメンシークがお買い上げっ?!~

9.すべてのものごとが、ヒロインであるアリスを中心に回っている世界

(ここから屋敷へは歩いて戻れる距離ではないし……お父さまとお母さまはご無事かしら。すぐに牢獄へ入れられたから、あのあとどうなったのかも知りたい)

 辻馬車を拾おうにも、周囲には犬を散歩するひとくらいしかいない。

 ローゼマリアは、自分が乙女ゲームの転生者だと覚醒して以降、これまで気がつかないことがいろいろ見えてきた。
 たとえば、先ほどの獄卒兵や御者。目の前を通り過ぎた散歩をする男性は、みな能面のような顔をしている。
 襲ってきたモブ獄卒兵は役割があったからか、それなりに表情はあった。
 しかし、それ以外で名前を知らない人物は、存在がまるで人形のようだ。

(問いかけても返事がなかったり、決まった会話しかできなかったり……本当にここはゲームの世界なのね。でも……)

 ジャファルという男は違った。

(極彩色という感じだったわ。存在感もあって魅力的で、驚くほどの美声で。彼がモブなんてありえない。メインの攻略キャラも真っ青の……あ、もしかして……!)

 そんなことを考えながら、きょろきょろと周囲を見回していたら――

 突然、建物と建物の隙間から、黒装束を身にまとったふたりの男が飛び出してきた。
 目の前までくると、ローゼマリアの両脇を陣取り、がしっと腕を掴んでくる。

「きゃっ! だ、誰?!」

「静かにしろ」

 どちらも黒いマスクをつけており、顔がわからなかった。
 素顔を晒せないような輩に命令される筋合いはない。
 ローゼマリアは毅然とした態度で、男たちをねめつける。

「お離しなさい! わたくしはミストリア王国屈指の名門、ミットフォート公爵家のひとり娘ローゼマリアです。それをわかっての狼藉ですか?!」

「うるさい。黙れ」

 ミストリア王国では絶対的な権力を誇るミットフォートの名を出しても、男たちは怯むようすを見せなかった。
 それどころかローゼマリアに向かって、脅しをかけてきたのである。

「命が惜しければ、このまま黙って歩くんだ。反逆者め」

「反逆者……わたくしが……?」

「そうだ。未来の王太子妃であられるアリスさまに逆らった反逆者。それがおまえだ」

 またしてもアリスである。

「わたくしが反逆者だなんて、どこに証拠がありますの?」

「うるさい! アリスさまがそうだと言ったらそうなんだ!」

(なんですって? すべてのものごとがアリスを中心に回るということ? これじゃあ、ヒロイン補正が強すぎるわ。ひとを殺しても、アリスというだけで無罪になってしまう世界じゃない)
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